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実践すべきは価格勝負ではなく“価値”勝負

ストックの顧客を作って伸び続ける会社になろう

コロナ禍の影響をさほど受けず、売り上げを伸ばし続けている会社や店があります。ポイントは、「どんな顧客が付いているか」ということです。つまり、"フロー"の顧客でなく、"ストック"の顧客を持っていることこそが、逆境下での好調の秘訣となっているのです。ストックの顧客とは何か、ボデーショップとして、どうすればそうした顧客を持ち、有効的に運営して未来永劫、繁栄できるのかを、中小企業への実践型マーケティングで数々の成果をたたき出しているオラクルひと・しくみ研究所の代表、小阪裕司氏が解説します。

ストックの顧客を作って伸び続ける会社になろう

フローの顧客が多いと陥る悪循環

日本は毎年人口が減り続けています。加えて、20 年からのコロナショックによって、様々な業界が苦境に立たされています。そんな中、特にシビアな状況となっている会社には、共通したある特徴があります。それは、顧客の形態がフローである場合が多いということです。

フローの顧客とは、簡単にいえば、一見客のことです。同業他社が溢れている今の時代、一見客が利用する会社や店を選ぶ基準は、料金が安いかどうかになりがちです。例えば、一見客が多いボデーショップが大手や他社への対抗措置として料金を下げたとします。すると、一つひとつを丁寧に時間をかけて修理を行っていたのでは、安い料金に見合わなくなり、効率的に数をこなすために手間を省くことになるかもしれません。結果、大手や他社にはない、「丁寧な仕事」という差別化が発揮できず、顧客が離れるのを防ぐためにさらに料金を安くするといった悪循環に陥る可能性も出てきます。

ストックの顧客を作れば仕事は減らない

そうした事態を防ぐために有効なのがストックの顧客を持つことです。ストックの顧客とは、言ってみれば「常連客」のことです。つまり、その会社や店を気に入って、継続的に何度も利用してくれるリピーターであり、ファンです。ボデーショップで考えると、店やサービス自体が好きなので、値下げをしている大手や他社より多少料金が高くても、利用してくれることになります。一件で一定の収益を確保できるため、丁寧に時間をかけて修理しても見合うようになります。長い目で見て、常連客から修理や整備の依頼、車の購入が継続してくるため、仕事が減ることはありません。

一見客を常連客にすることで、売り上げを増大させることも可能です。また、コロナ禍のような緊急事態でも、好きな店を支えようと、率先して利用してくれたりします。中小のボデーショップにとって、持つべきは、フローの顧客ではなく、ストックの顧客であることは、火を見るよりも明らかではないでしょうか。

重要なのは顧客と"関係性"を築くこと

では、どうすれば、ストックの顧客を持つことができるのでしょうか。まず、行うべきは顧客リストを作ることです。すなわち、一度修理や整備、車の購入をしてくれた顧客をリスト化しておくのです。これは多くのボデーショップで既に行っていることと思います。

ただ、もちろん顧客リストを作るだけでは、ビジネスは回りません。大切なのは、そのリストを温め、顧客と関係性を築くこと、平たくいえば「仲良くなる」ことです。やってしまいがちなのが、顧客リストができたら、いきなり新車やサービスを売り込むメールや案内を送ってしまうことです。しかし、こうしたセールスは往々にしてうまくいかないことが多いでしょう。なぜなら、関係性が築けていないからです。これが、もし関係性が築けて、好意を持たれた状態でのセールスであれば、当然、購入を前向きに検討してもらえる確率が高くなります。つまり、この顧客との関係性を作れるかどうかが、ビジネスを左右するといっても過言ではないのです。

重要なのは顧客と

自己開示するニューズレターを送る
ふらっと立ち寄れるカフェも効果的

顧客と関係性を築くための手段として有効なのが、郵送かメールで、ニューズレターを送ることです。そこで重要なのは、隔週に1 回や月に1 回など可能な範囲で定期的に送ることと、「自己開示」をすることです。自己開示とは、例えば、最近見た映画やおいしかった店、趣味、ビジネスへの思いなど、私的な情報を提供することです。そうして、自分を語ることによって、顧客はあなたやあなたのお店のことが分かり、安心感や信頼、好意につながり、仲良くなっていきます。

さらに、店の中にふらっと訪れてくつろげるカフェスペースを作ることも効果的です。特に用事が無くても立ち寄って利用しやすい環境を整えて、従業員や経営者と、もしくは利用者同士で世間話ができる場を提供するのです。あるいは顧客を集めて、店の駐車スペースなどでバーベキュー大会を開くことも良いでしょう。地元密着の地の利を活かし、「どうすれば仲良くなれるか」を考えて、色々と企画することがポイントです。

仲の良い顧客リストに"価値"を売る

そうした施策によって関係性がを築きながら新車情報や整備、修理などのビジネス情報を並行して発信していくのです。あくまで関係性を築くことがメインです。ここを間違えないことが、ストック型のビジネスの肝と言えます。

一方で、改めて見つめ直す必要があるのが、「自社が提供すべき価値は何か」ということです。例えば、「どこよりも丁寧な修理や整備を行うこと」を最大の価値として提供するという手もあるでしょう。マーケティングで仲良くなり、大手や他社にはないそうした価値があれば、まさに鬼に金棒。値下げせずとも、多くの顧客が、継続的に利用してくれるはずです。

"仲の良い"顧客リストは他にも使えます。店自体が好きなため、仮に車関連以外のものを提供したとしても、「信頼しているあの店が売るものであれば買ってもいい」と受け入れられる可能性が高くなります。例えば、自動車保険に加えて生命保険も販売したり、趣味で詳しくなった健康食品を売ったりするなどです。それらを扱っている会社とコラボしても良いでしょう。ストックの顧客を持つことは、本業を伸ばすだけでなく、こうして次の収益の柱を作る上でも有利になるのです。

仲の良い顧客リストに
仲の良い顧客リストに

小阪 裕司氏

研究所代表/博士(情報学)。人の「感性」と「行動」を軸にした独自のビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」主宰。全都道府県および海外から約1500社が参加。現在、金融機関等との連携でワクワク系を全国展開する事業が、経済産業省の認定を受け進行している。日本感性工学会理事、九州大学招へい講師。著書は『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHP)など多数。 https://kosakayuji.com/

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