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中小企業経営者の奥義「ランチェスター経営」を実践!

中小規模のボデーショップが勝ち残る戦略を学んでみよう

市場環境が急速に変化する中、経営のかじ取りに苦慮し、次に打つべき手を模索されている経営者の方も多いことでしょう。そうした中、中小事業者が勝ち残るための秘策として注目されている戦略が「ランチェスター経営」です。今回は、ランチェスター経営の実践書を出版し、数々の経営者向けセミナーでもその奥義を教えている栢野克己氏に話を聞き、考え方のポイントとボデーショップでの想定実践事例を解説します。


中小企業は"接近戦"で勝負商品・地域・客層を限定する

ランチェスター経営とは、イギリスで自動車会社を経営していたフレデリック・W・ランチェスター氏が、第一次世界大戦の戦況を研究して発表した「ランチェスターの法則」を、ビジネスに応用した経営戦略の基本メソッドです。この法則では、強者は射程距離が長い兵器で離れて戦うことが有利に戦局を運ぶための常套手段であり、逆に弱者が勝つためには、接近戦、一騎打ち戦が最適だと説いています。

これを経営に当てはめると、大企業は商品、地域、客層を幅広く、広域に設定して、テレビや派手なマスコミ広告宣伝を使って販売。一方で、中小企業は、商品、地域、客層を限定し、接近戦や一対一の一騎打ち戦の営業で勝負をすることが、競争に勝ち抜くための鉄則となります(図1)。つまり、中小企業は規模の大きな会社と同じことを行ってはならず、中小規模の会社にはそれなりの戦い方があるわけで、その戦略を経営者が実践しやすいようにまとめたのが「ランチェスター経営」なのです。

ソフトバンクやエイチ・アイ・エスもランチェスター経営で勝ち抜いた

では、ランチェスター経営の具体的な手法を見ていきましょう。ポイントは、「差別化」「小さな1 位」「一点集中」「接近戦」の4 つです。 
まず、差別化では、大企業や他社とは違うことに取り組む戦略が肝心です。他業界の例では、1980 年代、創業期のソフトバンクがパソコン向けソフトの卸売業で成功しました。当時、主なパソコンユーザーは個人のマニア層で市場は小さく、ソフトの専門商社は皆無。同社は瞬く間にシェア8 割を獲得したのです。また、海外旅行のエイチ・アイ・エスも学生や個人旅行向けの海外格安航空券販売に的を絞り、大手と異なる戦略で成長。理容業の「QB ハウス」が始めた10 分1000 円カットも、既存業者がやらない差別化戦略でした。

軽自動車のカスタム限定で成功地域ではアジアの途上国に商機も

自動車業界でも、「モデストカーズ」は当初中古車店からスタートし、その後、軽自動車専門店に移行、最終的に既存の車種をベースに「ワーゲンバス仕様」などに車体を改造するカスタムカー専門に特化し、商品を差別化した好例です。
その他の戦略案としては、例えば高齢者や女性、若者、あるいは障害者に客層を思い切って絞ったボデーショップや、「○△市」や「△□町」など営業エリアを狭く限定するなど、さまざまな特化・差別化の手法が考えられます。さらに地域で言えば、日本ではなく、東南アジアで新たに修理工場を始めるという選択肢もあります。先日、視察旅行でミャンマーを訪問したところ、路上を走っているのは中古の日本車ばかりで、進出すれば一気に修理需要を取り込めると感じました。日本市場が縮小する中、アジアに目を向けることも一つの打開策ではないでしょうか。

狭い範囲でナンバーワンを目指す一点集中できるかが成否を決める

次の「小さな1 位」とは、文字通り、限定した商品、客層、地域で1 位の売上げを達成すること。例えば、特定の車種の販売、もしくは修理入庫で売上げ1 位、高齢者顧客数で売上げ1 位、△□町でナンバーワン...など、対象や範囲が狭くていいので、とにかく1 位を獲得するのです。1 位は消費者の記憶に残り、クチコミでも紹介しやすく、チラシなどのキャッチコピーに使って宣伝もしやすいからです。

3 つ目の「一点集中」とは、小さな1 位を獲得する対象が決まったら、他の商品や地域、客層には目を向けず、その対象だけに絞ってヒト・モノ・カネ・時間のリソースを集中させることです。現実的にはリソースの配分を徐々に移行させていくことになると思いますが、この一点集中ができるかどうかが、最も勇気が必要な決断であり、ランチェスター経営の成否の決め手であると言えるでしょう。

営業の"接近戦"で戸別訪問を展開手書きを添えるニュースレターも有効

最後の「接近戦」は、主に営業活動や顧客獲得後のフォローで有効な手法です。具体的に、営業の接近戦とは、まさに個々の顧客に物理的に近づくこと。例えば、絞った営業エリアを一軒ずつ訪問してチャイムを鳴らし、直接名刺やチラシを渡すか、不在であればポストに入れておく地道な作業を展開していきます。「営業なんて無理」と言う方は、大げさに考えず、近所への「挨拶」程度だと思えば、抵抗感は減るでしょう。チラシにひと言手書きでメッセージを書けば、なお効果的。手書きは印刷された文字より、親しみがあり、"心の接近"が図れるからです。既存客であれば、相手の氏名を書き、お礼の言葉を添えるのも有効です。 

既存客をリスト化し、定期的にハガキやニュースレターを送付することも、リピート獲得策として有効です。ニュースレターには、自宅で可能な自家用車のメンテナンスやドライブの注意事項など業務関連情報に加え、地域のグルメ、美容、人気ショップなどの情報を掲載しても良いでしょう。もちろん、顧客ごとに手書きで特別なメッセージを入れることが重要です。

接近戦はとても面倒で手間がかかりますが、それだけに大手や競合他社で取り組んでいる会社は少ないはずです。できることから着手して、中小規模のボデーショップならではの商機につながればと思います。

今回のレポートは、10万部のベストセラーを記録し、新版も出版された『小さな会社★儲けのルール』や『小さな会社の稼ぐ技術』の著者であり、インタークロス代表の栢野克己氏に話をうかがい、まとめました。栢野氏は全国の商工会やJC、法人会などで約1300回講演し、勉強会も1000回以上主催しています。

栢野克己氏の著書

『小さな会社の稼ぐ技術』(日経BP社/1,728円・税込)

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