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将来に向け、打ち手に悩む経営者の方々へ

「心理的安全性」を高めて パフォーマンスを上げよう

将来に向けて、何か手を打たなければならないと考えている経営者の方は多いでしょう。そうした時、有効となるのが、従業員の間で「心理的安全性」を高めることです。これを高める活動を行うと、従業員が活発に意見を言い合うようになり、助け合いや何事にも挑戦する空気が生まれます。世界のGoogleでも、優秀な人材を集めただけのチームより心理的安全性の高いチームのほうが効果的であると結論付けており、これからの時代に成果を上げるチームの要件と言えます。具体的な施策を、心理的安全性の研修を手掛けるZENTechの原田将嗣氏に聞き、レポートします。

「心理的安全性」を高めて パフォーマンスを上げよう

何でも言い合えるチームこそ最強

「心理的安全性」とは、地位や経験に関わらず、組織内(社内)の誰もが、率直な意見、素朴な疑問、違和感、仕事上のミスなどを恐れず、安心して言える状態を指します。 今は、先の読めない時代です。そうした中、心理的安全性が確保でき、何でも言い合えるようになれば、気軽に意見やアイデアを出せて、それを皆で議論することで、打開策を見い出せるかもしれません。ミスもいち早く共有できれば、早めに対処して被害を少なくすると同時に、仲間で今後の防止策を話し合うこともできます。

こうしたチームは最強です。皆の力を結集して今までにない答えが見つかり、それを実践することで、パフォーマンスや業績が大きく改善される可能性があるからです。

挨拶に名前を入れるだけで効果がある

心理的安全性を高めるために必要なのが、特に経営者やリーダーが「話しやすい環境作り」から始めることです。ここでは、いくつか例を挙げてみましょう。
まずは、日常必ず行う挨拶の際に手軽にできる工夫です。それは、「○○くん、おはよう」「○○さん、お疲れ様」と、相手の名前を前に付けることです。名前を付けると、相手は「この挨拶は自分に向けられている」「自分の名前が呼ばれるこの場所は、自分がいてもいい場所」と承認欲求が満たされ、安心感につながりやすいからです。
さらに、良い効果は、話しかけた経営者やリーダーの側も、相手の名前を呼ぶことで挨拶に続いて「元気?」「最近どう?」と会話をつなげやすくなること。すると、相手も「ちょっと聞いてくださいよ」と、気になったり、困っていたりすることを言い出しやすくなります。単に、挨拶に相手の名前を入れるだけ―。これを毎日繰り返すことで、心理的安全性を少しずつ高めることができるのです。

挨拶に名前を入れるだけで効果がある

ミスの報告は「Why」でなく「What」で聞く

一方、自動車修理などの仕事でミスが起こり、報告があった時も返し方が重要です。言いがちなのが「何でそんなミスをしたの?」といきなり原因(Why)を聞くことです。実は、その言葉の裏には「まずは謝りなさい」と責める意図が暗に込められてしまっています。それを察知し、相手は最初に「すみません」と謝罪することになります。これでは、その後再度ミスが起こった時、また責められると思い、即時の報告がしづらくなる可能性があります。最悪の場合、黙っておくという選択をするかもしれません。

そこで、良い返し方が「何が起きたの?」と聞くことです。これであれば、責められている感じはなく、最初から"起きたこと(What)"にフォーカスして話せます。次回、ミスを起こしたとしても「いち早く報告せねば」という気持ちになります。こうして、ミスが起きても言いやすい環境を作り、早めの対処と防止策につなげていくのです。

ミスの報告は「Why」でなく「What」で聞く

「納期に間に合うの?」はタブー

 修理や営業の進捗が止まっているときも同様です。「なんで予定通りいってないの?」「納期に間に合うの?」と問い詰めがちです。その言葉の裏には「自分で何とかしろ」という意図が込められてしまっています。相手は「大丈夫です、頑張ります」と答えるのが精いっぱいで、最後は間に合わなくなるか、無理して体調を崩すかもしれません。
この場合は「今、止まっていることって何かな?」と聞くのが有効です。相手は具体的に止まっている作業を答えられ、先輩やリーダーは「それなら何とか一人でできそう」「いや、間に合いそうもないから誰かと一緒にやろう」と判断ができます。こうして、仕事上の負の局面では、最初にWhy ではなくWhat を問うことによって心理的安全性を高めることができ、適切な対処が可能になるのです。

「納期に間に合うの?」はタブー

「テンパってます!」の報告は定着の兆し

こうした活動が浸透すると、従業員の言動にも変化がみられるようになります。「今の作業でテンパっています!」と従業員の方から相談してくる機会が増えてきたら、しめたものです。心理的安全性が高まって言いやすい環境が醸成されてきている証拠だからです。

そうして心理的安全性の土台が整ってきた頃合いを見計らって、社内で仕事や事業を良くするためのアイデアを募集することも一つの手でしょう。ボデーショップであれば、「作業場をきれいに使うためのアイデア」「仕事を早くするためのアイデア」などです。全員でアイデアを持ち寄って定期的に話す場を設けることも良いでしょう。

アイデアには「試しにやってみようか」

ただ、その際にも、経営者やリーダーの態度が鍵を握ります。言ってしまいがちなのが「それいいね、やっといて」「頼んだ」という言葉です。それでは、自分の負担ばかり増えて、「言ったら損」という気持ちになり、以後、アイデアは出てきづらくなるでしょう。  

良い言い方はこうです。「誰のサポートがあれば進みそう?」と聞くのです。これによって、一人任せにならず、助け合いによってそのアイデアを進めやすくなります。また、どんなに難しそうなアイデアでも「そんなの無理」と断るのは不適切です。失敗してもいいから「試しに1回やってみようか」と、チャレンジを促します。こうすれば、これからもアイデアは言いやすくなり、いつか上手くいって、パフォーマンスの向上につながることもあるでしょう。

こうして、従業員の心理的安全性が高めることができれば、会社は着実にパワーアップします。できることからコツコツと行っていくことが重要でしょう。

アイデアには「試しにやってみようか」

原田将嗣氏

株式会社ZENTechシニアコンサルタント。心理的安全性を軸にした組織づくりの実践家。心理的安全性を切り口に、コンプライアンス意識の浸透、ダイバーシティの醸成、デジタルトランスフォーメーションの土台となる組織づくりを支援。2020年、ZENTechに入社。著書に、『最高のチームはみんな使っている 心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社)

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