電子請求書は印刷して紙保存ができなくなる!
改正電子帳簿保存法への対応を考えよう
2024 年 1月から、電子帳簿保存法の改正により、電子取引情報の保存の規則が変わります。大きな変更点は、メールなどの添付で受け取った請求書や電子的に発行された領収書などを、印刷して紙で保存する行為が認められなくなることです。改正は2022 年 1月から施行 され、2年間の宥恕(義務はあるができなくても許す)期間がありましたが、まだ準備が整っていないボデーショップもあるのではないでしょうか。どんな法律で、どう考えればよいのか、紙から電子データに置き換えるメリットは何かを、この問題に詳しい税理士の上田智雄氏が解説します。
紙から電子へ、簿記の歴史的な大転換 複式簿記はしっかりやれば儲かる
電子帳簿保存法(電帳法)とは、文字通り、「簿記」を電子データとして保存するためのルールを定めた法律です。簿記とは、会社や事業が儲かっているかどうか、財務的にどのような状況かを税務当局など誰かに報告したり、経営者が分析したりする際に必要な「会計」を行うため、会社や事業の活動を"数値"に置き換えて帳簿に付ける行為です。それを従来、紙で行っていたものを電子データでの記述、保存に変えていこうということで、これは会計、簿記の大転換であり、画期的な出来事といえます。
そもそも帳簿の歴史は古く、紀元前にローマ帝国の初代皇帝であるアウグストゥスが財政状況を把握するために帳簿を付け、公開したことが最初といわれています。時は流れ、イタリアで近世に始まったのが世界的な発明とされる「複式簿記」です。銀行業で財を成したメディチ家が複式簿記を取り入れ、お金を巧みに管理し、財務状況を常に把握して改善することで莫大な富を築きました。メディチ家は画家のパトロンとなり、その財力のおかげでルネサンスが勃興したわけです。この史実からの教訓は、簿記をしっかり付けて経営に役立てると「儲かる」ということです。
実は 20 年以上前に既に電帳法は導入済み 高いハードルがあり導入は進まなかった
現代では、会計士や税理士の制度が整い、国家が帳簿の正確性をチェックする機能として、日本では国税庁の査察や税務署の税務調査があります。そして、帳簿は紙から電子への流れが進められ、実は、20 年以上前の 1998 年には、第一弾の電帳法が施行されているのです。ただし、当時は次のような高いハードルがあったのです。
当初は、今まで紙の書類で調査や査察のノウハウを積んできた税務当局が、電子化された書類の扱いには慎重な姿勢を示し、規定を厳格化していたため、導入が進まなかったという背景もあります。
改正電帳法によって導入要件が大幅緩和 ただし、電子データの紙保存は不可に
しかし、コロナ禍で局面が変わりました。業務の電子化によって、離れていても効率的に作業ができるリモートワークが浸透。税務当局も電子化への対応を加速させるため、電帳法の改正に踏み切ったのです。改正によって次のように要件が大幅に緩和されました。
この改定によって、会社はより簡単に導入が図れるようになりました。
一方で、厳しい要件も加わりました。従来、電子データで受け取った請求書や領収書を紙に印刷して保存することは可能でしたが、改正電帳法では、これが認められなくなったのです。つまり、電子データで受け取ったならば、電子データのまま、パソコン上やクラウドサービス上に保存する必要があり、それを紙で保存することは不可となります。このルールが始まるのが 2024 年 1 月なのです。
猶予措置はあるが、今が電子化の好機 経理業務のアウトソーシングも可能に
実は、2024 年1 月以降、宥恕措置が終わった後も、新たに「猶予措置」が設けられ、「相 当な理由」があり、その理由を税務署長が認める場合は、電子データで受け取った場合も紙での保存が許容されています。ただし、この猶予措置がいつまで続くかは分からず、既に税務当局が電子化に大きく舵を切った今、ボデーショップでもこれを契機に改正電帳法に従い、紙から電子へと移行を検討することが重要です。
その理由はいくつかあります。まず、「①紙を廃棄することによって保管スペースが不要 になること」です。また、「②多様な働き方に対応できること」も挙げられます。請求書や領収書などを電子化し、あるいは、クラウドサービスなどで電子帳簿を導入することによって、インターネット上でやり取りできるようになり、例えば、会社にこなくても自宅で仕分けなどの帳簿を付ける作業が可能になります。人材不足の中、家庭にいる介護や子育て中で未活用の人材などに、そうした経理の業務を依頼する「アウトソーシング」を行うこ とで、ボデーショップは、自動車の修理や営業などコア業務に集中できるようになります。
電子帳簿の分析で現代のメディチ家に? 義務ではなく前向きの未来志向が重要
そして、「③ボデーショップの経営を次世代に引き継ぐのであれば、経理の電子化は避け ては通れない道」です。今後、人手不足はより加速する可能性が高いからです。また、帳簿を電子化するクラウドサービスを使うことによって、月次決算を行いながらタイムリーな利益・費用構造の分析、財務状況の分析が可能になり、まるで現代のメディチ家のような、儲かる経営への移行も見えてきます。
確かに、電子化はコストも手間もかかります。電帳法によって義務が生じ、やらざるを得ないという考え方もあるでしょう。しかし、より「前向き」な見方をすると、この機会をチャンスと捉え、事業を未来に つなげる起爆剤とすることも可能になります。そうした長期的な視野に立った判断も大切になってくるでしょう。
上田智雄氏
プロフィール:プロフィール:いっしょに税理士法人(東京・渋谷区恵比寿)の代表社員で税理士。同税理士法人を2009年に設立し、現在従業員数は32名。税務相談や税務申告のほか、金融機関からの資金調達に関するコンサルティングを行っている。会社が経理をアウトソーシングする「バーチャル経理部」や帳票類のデジタル化のサポート、そのためのシステムやクラウドサービスの導入支援も行う。全国各地の中小企業に対応。連絡先0120-987-375