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指示待ち社員をなくせば全てがうまくいく

自分で考えて動く社員を育てて会社の活気と希望につなげよう

先行きが不透明な時代。重要なのはひとり一人が"自ら考えて動く"社員になることです。そうした社員が増えれば、社長や上司がいちいち指示を出さなくて済み、社員は仕事が楽しくなり、若手が定着する可能性も高まります。ボデーショップ全体が「考える集団」に生まれ変わることで活気が生まれ、将来の希望の光も見えてきます。今回は関連する著書もある篠原信氏に、キーとなる考え方とボデーショップでの具体策を聞いてみました。


指示待ち人間は社長や上司のロスを生む。仕事の意欲を削ぎ、定着率の低下も招く

「指示待ち人間」は日本の組織でしばしば問題になることです。なぜ指示待ち人間は問題なのでしょうか。ボデーショップのような中小企業で考えれば、一つは社長や上司にとって「毎回指示を出さなければならない」という余計な手間が掛かってしまうことです。指示は時間のロスとなり、本来すべき他の重要業務に支障が出ます。社員は自ら考えることをしないため、会議でも意見や良いアイデアが出てきません。
一方、社員側にとっても問題です。一見、指示待ちは楽で良いように思えますが、実は最も大切なものを削いでしまいます。それは、仕事への「意欲」です。指示を待ち、単にそれをこなすだけでは面白みに欠け、毎日続けば、モチベーションは低下する一方。仕事がつまらなくなれば辞める可能性も高まり、定着率も低くなります。つまり、社長や上司にとっても、部下にとっても、指示待ち人間は回避すべき大きな課題です。

自分で考えて動く人間を作る。教えすぎず、教えなさすぎない育成術

「どうすれば指示待ち人間を作らずに済むかといえば、それは対局にある「自分で考えて動く人間」を育てることです。そのために重要なのが、あれこれ先回りして教えるのではなく、"質問で誘導する"ことです。例えば「この事故車を直す手順は、まずこれをやって、次にこれをやって、その理由はこうで...」と、毎回問題の答えを最初から全て言ってしまっていては、考えなくなるのは当然です。良かれと思って丁寧に教えれば教えるほど、社員が自ら考える機会を奪い、指示待ち人間になるのを手助けしているようなものです。
だからと言って、「技術は目で盗め」とばかりに、何も語らず、ただ修理しているところを見せるだけでは、技術は身に付かず、多くが挫折してしまうことでしょう。教えすぎず、教えなさすぎでもない、そのちょうどいい塩梅を狙った育成術。それこそが自分で考えて動く人間に育てるためのポイントなのです。

まずは"ラポール"の関係を形成する。身構えなくなるためのベースを築く

では、具体的な方法を見ていきましょう。一例として、新しく入った若手社員のケースで説明します。主なステップは2 つです。まず、大切なことは、心理学用語でいうところの「ラポール」の関係を築くことです。ラポールとは「相互信頼」「親しみ」という意味で、これが形成できていないと、社長や上司の助言・提案を聞いてくれなかったり、思っていることを話さないなど、意思疎通がスムーズに行かないからです。逆にラポールが形成されれば、「この人には素で接してもいいかな」と身構えなくなります。ラポールは社長や上司と部下の間で欠かせないベースのようなものなのです。
ただし、難しく考える必要はありません。行うべきことは唯一つ、「部下の話を訊くこと」です。

部下に質問して答えを驚き、面白がる。続ければ好意と信頼を寄せてくれる

「訊く」というのは「質問して答えを聞く」という意味。 例えば、「なぜクルマに興味を持ったの?」「どんなクルマが好き?それはなぜ?」といった業界に関係のある質問から、「高校の時は何に打ち込んだの?」「普段どんな音楽を聴く?」「昔から好きな食べ物は?」など思い出や趣味を問うものまで、適宜質問をして、できるだけ相手に話してもらうようにするのです。
加えて大事なポイントが、相手の言ったことに対して「へえ!」「ほう!」「それは大変だったね」と合いの手を入れ、「あなたの話は大変面白い、もっと聞きたい」という気持ちを示すことです。人間は不思議なもので、自分の話に驚いてくれる人には好意と信頼を寄せるもの。 これを続ければラポールが形成される可能性が高まり、その後の意思疎通が格段にしやすくなるわけです。

仕事や作業で指示の代わりに質問をする。答えは否定せず、常にポジティブに反応

このようにベースの関係を持った上で、育成のステップに進みます。ここでも大切なことが"質問"です。例えば、作業の手順の概要を説明する際に、「なぜ、こうすると思う?」「何か工夫できることはないかな?」と質問をします。発想を手助けするヒントを与えても良いでしょう。どんなに稚拙な答えでも否定せず、「へえ!」「面白い考え方だね」と常に感心することが大切。
さらに「それで?」「というと?」「つまり?」「どういうこと?」と深く掘り下げる質問を行います。新人ですから、手持ちの知識は不足していて当たり前。それでも頭を悩ませながら意見を絞り出し、それを社長や上司、先輩が否定をせず、むしろ驚いたり、面白がったりしてくれる。そんな姿を見れば多くが嬉しくなり、考えることが楽しくなるでしょう。

意見を尊重して実際にやらせてみる。考える癖と行動力で次世代を担う人材に

こうして考える習慣を身に付けさせることが第一歩。その後の仕事でも、全部教えることは控え、「どうすればいいと思うか」「何か工夫点はないか」「君だったらどうするか」と、常に質問。意見を尊重して実際にやらせてみる機会も与えます。
それを根気よく、ひたすら続けていくのです。すると、「自分だったらこうする」という"仮説思考"が身に付きます。すなわち、どんな仕事や問題に対しても「考える」のが癖になります。経験を積み、その思考の精度が高くなれば、指示を出さなくても自分で考えて行動できる社員に育つわけです。
常に質問し、答えを驚き、面白がる。たったこれだけで、考えて動く社員になる伸びしろがぐんと大きくなります。こうした社員を育成できれば、定着率が高まると共に、会社の課題に対して「自分なら...」と良いアイデアをひねり出すなど、次世代を担う人材に育つことも期待できるのです。

今回は、『「指示待ち人間」はなぜ生まれるのか?』という表題でネット上に記事を公開し、閲覧者50万以上の反響を受け、右の著書を書いてベストセラーとなった篠原信さんを取材し、まとめました。ここで記述した以外の有効な方法が数多く紹介されている本書をぜひご一読ください。他の著書に『子どもの地頭とやる気が育つおもしろい方法』(朝日新聞出版)『ひらめかない人のためのイノベーションの技法』(実務教育出版)もあります。

『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』(文響社/1,380+税)

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