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「この人から買いたい!」と思わせる

NGワードをキラーフレーズに変えて"売れる接客"を実践してみよう

「お安くなっています」「どんな車をお探しですか」「この商品は人気です」「よろしければ試乗してください」など、何気なく使っている接客のフレーズが、実はNGワードだったとしたら...。今回は、アパレルを中心に様々な業界で接客の基本を教える、接客アドバイザーの平山枝美氏に、NGワードを「この人から買いたい!」と思わせる"キラーフレーズ"に変えるための考え方と、ボデーショップで使える具体的な言い回しをレクチャーしていただきました。


パーソナルな接客が"売れる"ための鍵。目指すのは悩みを解消するカウンセラー

 皆さんは、売れる販売員と売れない販売員の違いは何だと思いますか? それは、目の前のお客さまが今、何を考えているか、しっかりと相手の思いを踏まえて話しているか否かです。売れる販売員は、お客さまをさりげなく観察して、話を通じてその方の真のニーズを掘り起こし、それに合った答え方や商品提案を毎回徹底して行っています。つまり、誰にでも同じマニュアルの接客ではなく、一人ひとりのお客様に合わせたパーソナルな接客をしているから"売れる"のです。

 商品・サービス販売でのパーソナルな接客とは、ひと言で言えば「カウンセラー」になることです。ボデーショップに来るお客さまは、「壊れた車は直るのか」「車の調子が悪い」「次はどんな車を買えば良いか」など不安や悩みを抱えています。ですから、「自分はお客さまの不安や悩みを聞き、解決するカウンセラーである」と意識して、困っていることを質問や会話で"問診"し、専門家ならではのアドバイスや提案といった"処方箋"を提示するのです。こうして、お客さまの不安や悩みを解消するのが接客の本質であり、その結果、商品・サービスが売れるようになるわけです。

お客さまの様子は"チラ見"が原則。最初の声掛けでは疑問を先回りして回答

 お客さまへの具体的なアプローチ方法としては、図1のように5つのステップで行っていきます。まず、来店して「いらっしゃいませ」とひと声かけた後、お客さまが展示車やパーツ、サービスを回遊して見ている時は、すぐに声をかけずに「動的待機」の態勢で待ちます。じろじろ見るとお客さまはストレスを感じるので、商品や資料を整理するなどテキパキと動いて忙しさを演出しながら、5秒に1回くらい顔を上げてあくまで「ちらっ」と見て様子をうかがいます。こうやってお客さまが自由に見やすい雰囲気を作るのです。

 次のステップが「ファーストアプローチ」。ただし、展示車を見ているお客さまに、「よろしければ試乗ができますので」と声をかけるのは不適切です。試乗はお客さまに「この販売員なら信頼できそうだ」と思わせた時に初めて勧めるものであり、最初に行うと、警戒心を強めることになり逆効果でしょう。

 初めの声掛けのポイントは、お客さまの視線の先にあるものや触れたものをさりげなく話題にすることです。展示車のドアを見ているのであれば開閉しやすいこと、シートに触れたのであれば座り心地の良さや長時間座っても疲れないことなどを説明します。このように疑問に思っていそうなことを先回りして回答すれば、自然とお客さまとの会話を始めることができます。

接客の時間では「雑談」がNG!? 質問は"二択"からオープンが基本

 ステップ3が「ニーズの把握」です。事故車や傷の修理、車検や点検など要件が明確な来店は、動的待機からファーストアプローチまでが不要なので、このステップから接客が始まります。ここでは「会話」をすることが主業務です。とはいえ、雑談を行うことがメインではありません。お客さまは商品や修理について、聞きたいこと、知りたいことが山ほどあるのに、その時間を雑談で潰してしまうのは得策ではないからです。

 また、「どんな車をお探しですか?」といきなり尋ねるのもNG。そう聞かれて明確に答えられる人は稀であり、多くの人が戸惑って口ごもってしまうのではないでしょうか。最初は「大きい車と小さい車、どちらをお探しですか?」など、"二択"の質問から始めるのがベターです。さらに「荷室の大きさは広めと普通とどちらか」などいくつか二択で質問し、話が盛り上がってきたところで、「どんな色がいいですか?」とオープンな質問に移行すると、お客さまもスムーズに答えられ、ニーズの把握もしやすいでしょう。

プロの目から見て「要・不要」を助言。信頼を獲得でき、リピートにつながる

 一方、事故車や傷の修理、車検・点検では、お客さまがどこまで直したいのかを把握することが大切。重要なのはプロの目から見て、ニーズを見極めながら、修理や部品交換の要・不要を助言することです。例えば、細かい傷が気にならないなら大きな凹みだけを直すこと、頻繁に運転しないなら、エンジンオイルの交換は必要だが、タイヤ交換は不要など。特に"不要"な面を率直に助言すると、お客さまの利益を第一に考えていることが伝わり、信頼を獲得でき、「次回もお願いしよう」とリピートにもつながりやすくなります。

お客さまが求めているのは提案力。使用シーンの想起で購買欲を向上

 そして、4つ目のステップが「商品提案」。大切な点の一つは、持論も提案することです。お客さまが気に入っている車やコーティングなどのサービスを何も助言をしないまま提供するのはNG。代わりに「お客さまであれば、こちらの車(サービス)も向いています。理由は...」と、プロの目から見た別の提案も積極的に行うのです。自分では気付かない提案があれば、「またあの人の意見を聞きたい」と、顧客化につながります。

 加えて、単に「売れています」「人気です」と言うのもNG。軽自動車であれば「お客さまと同じ普段使いの方から人気。狭い道で対向車とすれ違うのが楽というのが理由のようです」と、具体的にするとイメージがわきやすく、購買欲を高められるでしょう。前述した「試乗」もこのステップで勧めてみるのがベストです。

 このようにして、ようやく最後のクロージング(販売)が見えてくることになります。重要なのは、一つひとつのステップを丁寧に行いながら積み上げ、お客さまから「この人は信頼できる」「この人から買いたい」と思わせること。それが売れる接客のツボであり、リピート化や囲い込みへの第一歩になるのです。

今回のレポートは、著書『売れる販売員が絶対言わない接客の言葉』が8刷のベストセラーになっている、接客アドバイザーの平山枝美氏に話をうかがい、まとめています。本著には接客で使えるキラーフレーズが満載。平山氏は、無印良品(良品計画)や大型商業施設、ドラッグストア、美容室など、アパレルにとどまらず、小売業全般の接客アドバイスを手掛けています。

平山枝美氏の著書

『売れる販売員が絶対言わない接客の言葉』(日本実業出版社/1,404円・税込)

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