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メガネスーパー流、新戦略の立て方

付加価値高単価路線と攻めの営業で顧客満足と収益の両立を図ろう

ボデーショップを経営する中で有効な次の一手がなかなか見つからない時、他業種の成功事例がヒントになることがあります。そこで、取り上げるのが、メガネスーパーなどの眼鏡チェーン店を全国に展開するビジョナリーホールディングスです。今回は、同社を実際に取材。会社存続の危機から復活するまでに打ってきた施策の中で、ボデーショップでも応用できそうな視点をピックアップし、具体案を交えて紹介します。


眼鏡の専門技術に優れた社員が武器。アイケアカンパニーを標榜して再生

 メガネスーパーは1973年に設立され、ピーク時は全国に約550店を展開した眼鏡チェーン店の老舗です。しかし、新興勢力をはじめとする他社との低価格販売競争の結果、リーマンショック後に赤字に転落し、一時は会社の存続が危ぶまれる事態に陥りました。

 ファンドの支援を受けて再生支援が始まったのは2011年末です。まず、他社にはない会社の強みを見直すことから始めました。判明したのは、検眼や眼鏡のフィッティングなど専門技術に優れた社員が多いこと。逆に言えば、それくらいしか優位性は見いだせなかったのです。また、低価格路線の新興勢力が主に若い世代を中心に支持される中、同社の顧客は40代以上の中高年が7割。ただ、この中高年世代は、老眼をはじめ目の問題を多く抱えており、昨今はパソコンやスマートフォンの普及で、悪化する傾向が顕著でした。

 そこで、同社が打ち出した新戦略が「アイケアカンパニー」を目指すことです。技術力の高い社員が、中高年を中心とする来店客の検眼を徹底的に行い、各自に最適なレンズの眼鏡を提案して、「目の悩みを解決する」方針を宣言したのです。一般的な眼鏡チェーン店の検眼は無料で15項目程度ですが、メガネスーパーは有料でおよそ40〜50項目以上に及びます。有料でも、他社にはない緻密な検眼で自分の目の状態と解決策を知りたいニーズはあり、顧客獲得の新たな武器になったのです。

自社の強みと顧客の問題点をマッチング。付加価値の高さで顧客の心を掴む

 さらに、ライフスタイルに合わせた眼鏡を提案することもポイント。例えば、スマホを見る時と運転する時、あるいはデスクワークの時と休日ゴルフをする時では、近くを見やすい眼鏡と遠くを見やすい眼鏡を使い分けた方が、パフォーマンスが良くなり、目の負担も軽減できます。

 平均単価も従来の倍以上の3万8000円と高単価に設定。それに検眼の有料化や眼鏡を複数作ることが上乗せされると、顧客にとっては大幅なコスト増です。しかし、それに見合う付加価値を提供することで、既存の低価格店に必ずしも満足していなかった顧客の心を掴み、業績回復に成功したのです。

 こうしたメガネスーパーの施策は、ボデーショップの戦略を考える際の示唆に富んでいます。必要なのは、自社ならではの強みとターゲット層が抱える問題をマッチングさせることです。例えば、修理や整備の技術が他社より優位であれば、高級車をターゲットに、通常より点検項目を増やしたり、高単価なサービスを提供することなどが考えられます。重要なポイントは低価格に走らず、付加価値高単価路線のサービスにシフトすることです。

生活や問題に応じたサービスを提供。カーライフケアカンパニーを目指す

 一方、ライフスタイルに合わせたサービスも重要。車の使用が買い物メインなのか、休日の遠出メインなのかなど、個々のカーライフを丁寧にヒアリングし、最適なタイヤ選びなどの提案につなげることも有効ではないでしょうか。 車庫入れ講座、疲れないドライブ講座など、ターゲットが抱える課題を解決する無料講座も一つの手。そうして、カーケアにとどまらず「カーライフケアカンパニー」を標榜することも、他社との差別化につながる方策となるでしょう。

待ちの営業に攻めの営業を加える。収益と従業員の士気を同時に向上

 メガネスーパーでは、他にも他社が取り組まない新戦略を断行しています。その一つが「出張訪問サービス」です。眼鏡店に行くことができない高齢者施設の利用者に対し、店を休業してでも出張して眼鏡を無料で調整するサービスを提供しています。それは、来店が不確かな飛び込み客を店で待つより、今自分たちを確かに必要としている顧客への対応を大事にしたいという思いからです。つまり、顧客の来店に頼っていた"待ちの営業"に、出張する"攻めの営業"を加えることで、新たな需要の開拓を図ったのです。施設では眼鏡の調整だけでなく、その場で購入する人もいるため、新たな収益につながります。出張部隊の売上げは月間約3000万円と、同社の平均的な店の5~6店舗分を稼ぎ出すまでに拡大しています。そして、さらなるメリットは、"眼鏡難民"とも言われる施設の高齢者から感謝され、社会貢献的な意義もあることから、社員の仕事への誇りやモチベーションが向上することです。

 出張サービスは、待ちの営業が大半のボデーショップにとっても参考になるでしょう。オイルやタイヤの交換に加えて、点検や整備、簡単な補修なども客先で行う「移動メンテナンス」は、施設や個人向けの新ビジネスとして、可能性があるのではないでしょうか。収益源になり、感謝されて従業員の士気が高まる効果も期待できます。

有料保証サービスで顧客を囲い込み。他業界の成功事例のアレンジが近道

 一方で、他社よりも注力しているのが「保証」です。購入後、見え方に不満がある場合、レンズ交換期間は3か月が一般的ですが、同社は半年までなら何度でも無料でレンズ交換に応じています。さらに業界初の有料保証も実施。月々300円を払うと、壊れるなどした場合に6000円で同等のフレーム+レンズを購入可能です。ボデーショップでも有料保証会員制度を用意し、月額でいくらか支払うことによって、小さな傷が付いたり、ちょっとした故障が起こったりした際に、無料もしくは割引で修理を受けられるサービスは、顧客の囲い込み策として一考の余地がありそうです。

 今の時代に大切なのは、同業他社が行っていないことを導入し、いかに差別化を図るかです。その点で、こうして他業界の成功事例をアレンジして検討することは、一つの近道と言えるでしょう。

検眼やリラクゼーションサービスなどが充実する次世代型店舗の高田馬場本店

今回のレポートは、メガネスーパーやメガネハウス、シミズメガネなどを傘下に収めるビジョナリーホールディングス(HD)を取材し、まとめました。ビジョナリーHDは、業界大手では唯一3期連続の2ケタ伸長を達成する好調ぶりで、昨今は一人勝ちの状況。2019年にはウエアラブル眼鏡を製造や物流、医療などBtoB向けに投入し、未来に向けた新ビジネスも展開していく計画を立てています。

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