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心の不調を気付くにはコツがあります!

職場でできるメンタルケアの注意点と対策を知っておこう

企業規模の大小を問わず、うつ病など心の不調を訴える人が増えています。政府もストレスチェック制度を導入し、早めのケアを促しています。うつ病などの心の病は、誰しもがなる可能性があり、日頃から従業員の様子に注意を払ったり、予防や発生時の対策を備えておくことは、組織として不可欠でしょう。職場の日常でできるメンタルケアについて、神田東クリニック副院長でメンタルヘルスを専門とする、精神保健福祉士の佐藤恵美さんに聞きました。


遅刻や欠勤が多い、ミスを連発する......不調な人は何らかのサインを出している

 業務過多や世の中の複雑化、生活不安などを背景に、メンタルの不調に陥る人が、大企業だけでなく、中小企業でも増えています。深刻化すれば、長期で休んだり、辞めざるを得なくなることもあり、本人にとっても会社にとっても大きなマイナス。そうならないように、できる限り、早めに手を打つことが大切です。

 重要なポイントは、心の調子が悪くなっている人は、多くの場合、何らかのサインを出していることです。例えば、最近遅刻や早退が目立つようになっていたり、風邪、頭痛で休む日が増えているなど、勤怠関連で今までと異なる変化が出る場合があります。あるいは、表情が疲れていたり、仕事で指示を出した時に返事に覇気がないなど、見た目に現れることもあります。さらに、作業をしている時に集中力が欠けていたり、単純なミスを連発するなど、仕事に支障をきたすことも少なくありません。このように今までと何か違う様子が続くようであれば、それは注意のサイン。心の問題を抱えている可能性を疑ってみる必要があるでしょう。

気付いたら、まずは声をかけること。話をじっくり聞く機会の設定が重要

 従業員が何らかのサインを出していた場合、経営者や管理者が最初に行うべきことは、声をかけることです。「最近調子が悪そうだけど、どうしたの?」「何か問題はない?」と、さりげなく聞いてみます。そうして、会社としても気にかけ、悩みがあれば聞く耳を持っていることを伝えるわけです。

 ただし、「大丈夫?」と声をかけただけでは、「大丈夫です」と返され、話を聞きだすことは難しいかもしれません。せっかくサインに気付いていたのに、うやむやになり、問題を聞けないままずるずると悪くなってしまうケースも多いのは事実です。

 そこで大切な点は、就業時間後に時間を設け、会議室や外のカフェなどで腰を落ち着けて、話をじっくり聞く機会を作ること。通常の仕事から離れ、状況を変えた場を設定することによって、本人は「しっかりと話を聞いてもらえる」と思い、心を開いて話してくれる可能性が高くなります。ここで避けたいのが、居酒屋などで飲みながら話を聞くこと。お酒の席では、互いに「言いっ放し」「聞きっ放し」になってしまい、適切な対応することはできなくなるからです。

オープンな質問で何でも話せる雰囲気に聞き役に徹し、本人の言葉を待つ

 面談の席が設定できたら、話の切り出し方にも考慮が必要です。まず、面談の場を設けた目的を説明します。本人は呼び出され、遅刻やミスを叱られると思ってしまうもの。そうではなく、「心配だからあなたの状況が聞きたいだけ」と最初に伝えるのです。

 次に、聞き手が心配に思っている観点を具体的に挙げます。「遅刻や病欠が多く、体調が悪そうに見えるが、何か辛いことはないか」「仕事でもそれ以外でもいいから、上手くいっていないことはないか」など、オープンな形で質問を振って、本人が何を話してもいいような雰囲気にします。

 そして、質問をしたら、本人の言葉を待つことが重要です。経営者や管理者は、答えを待たずに何とか解決の糸口を見出そうと自分の豊富な経験を話してしまいがちです。しかし、大切なのは問題の裏に隠された背景を知ること。我慢して聞き役に徹し、本人が話し始めたら、うなずいたり、「それはとてもつらかったね」と共感して、話しやすくすることが鉄則でしょう。

外部の専門医を頼ることも一つの解決策。朝起きられずに遅刻や欠勤が続くと危険

 本人の様子が今までと違ったり、体調がつらく悩んでいそうな状況が長く(2 週間以上)続いているのであれば、早期に外部の専門家に頼ることも一つの方法です。特に、うつ病など心の病が原因である場合、専門的なアプローチや治療が必要になります。

 目安となるのが睡眠の状況です。寝つきが悪くないか、夜中に起きてしまうことが頻繁にないか、朝はスッキリ起きることができているかなどが指標になります。特に、朝起きるのがつらくて、遅刻や欠勤が続いているとなると、心の病が潜んでいることも考えられます。経営者や上司がクリニックの受診を勧めることで背中を押され、治療によって良くなるケースも多いのです。

メンタルケアに重要な「手続きの公平性」力をチャージするパワーナップも効果的

 最後に日頃のメンタルケアの方法にも触れましょう。職場でメンタルの問題が起こる要因の一つが、コミュニケーション不足です。対処法としては、就業中にコーヒーブレイクの時間を設け、経営者と従業員が気軽に話せる場を作り、彼らの不満や問題を早めにキャッチすること。また朝礼などで、新たに受注した仕事の意義や先方からの期待、あるいは経営者としての自分の考えなど、事業の説明やメッセージを適宜伝えることも重要です。これを専門的には「手続きの公平性」と言いますが、単に命令されるのではなく、仕事の目的や意味の説明をきちんと受けることだけでも、メンタルケアにとっては一助になるのです。

 一方で、本人ができることとしては、昼休みに10 ~20 分の間、クルマの中や静かな場所で昼寝をすること。これは脳を休めて力をチャージするための「パワーナップ」と呼ばれ、メンタルに好影響が期待できます。事故車の修理は、神経を使う作業が続くもの。毎日のパワーナップ習慣の導入は、対策の一つになるでしょう。

今回は、企業が抱えるメンタルヘルスの課題に対し、カウンセリングやコンサルテーションなど専門的な支援を提供する、MPS(メンタルヘルス・プロフェッショナル・サポート)センターの副センター長、佐藤恵美さんに話を聞き、まとめました。MPSセンターは、神田東クリニック(東京都千代田区)併設の専門機関。中小企業のメンタルヘルス問題にも積極的に支援しています(連絡先:03-5298-3051)。

佐藤恵美氏の最近の著書

『もし部下が発達障害だったら』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/1,080円・税込)
※その他、『ストレスマネジメント入門』(共著)などがある

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